アルコール(男性編)

「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」について、男女別にわかりやすく解説した健康づくり支援ツール

4万人のアンケート調査から得られた日常生活における飲酒の動機や背景などの具体例を活用することにより、より個人に合った飲酒習慣の見直しが期待できます。
また、世代ごとの特徴も示し、幅広い年代の対象者にアプローチできる構成としています。

ツール監修者一覧(50音順)

堀江 義則
堀江 義則
医療法人社団 慶洋会 ケイアイクリニック 院長
日本アルコール・アディクション医学会 理事長
略歴:
1988年3月 慶應義塾大学医学部卒業
1988年5月 慶應義塾大学医学部 内科学教室
1990年6月 国立療養所 久里浜病院内科
1992年6月 慶應義塾大学医学部 消化器内科
1994年11月 Louisiana State University Shreveport校 生理学教室
2003年4月 慶應義塾大学医学部 消化器内科講師
2004年12月 永寿総合病院 内科部長
2010年9月 山王病院 内科部長(消化器)
2010年9月-2017年10月 国際医療福祉大学 臨床医学研究センター 教授
2014年10月-2023年2月 内閣府・厚生労働省 アルコール健康障害対策関係者会議委員
2015年4月 山王メディカルセンター 内科(統括)部長
2017年11月-2021年9月 湘南慶育病院 副院長(消化器内科)
2018年2月-2022年6月 慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任教授
2022年7月 医療法人社団 慶洋会 ケイアイクリニック 院長
所属学会:日本消化器病学会(専門医、指導医、学会評議員、関東支部評議員)、日本肝臓学会(専門医、東部会評議員)、日本消化器内視鏡学会(専門医)、日本アルコール・アディクション医学会(理事長)、アルコール医学生物学研究会(監事、運営委員)、国際アルコール学会、米国アルコール学会、日本脳科学関連学会連合(評議員)
著書:「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」(新興医学出版社、分担執筆、2018)、「消化器内科医のためのアルコール臓器障害マニュアル 減酒療法のススメ」 (南江堂、分担執筆、2022)、「今日の治療指針2023年版 私はこう治療している」(医学書院、分担執筆、2023)、「内科医・かかりつけ医のためのアルコール使用障害ハンドブック」(新興医学出版社、分担執筆、2023)
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監修ツール
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課題の背景にあるエビデンスの情報

アルコール エビデンスのまとめ

危険・有害な飲酒に対してはブリーフ・インターベンションが効果的
飲酒量を削減するためのアプローチはいくつかあるが、世界保健機構(WHO)は、AUDITスクリーニングテストでスコアが8-15点の危険な飲酒や有害な飲酒をしている人に対して、ブリーフ・インターベンションが効果的とし、推奨している(1)。ブリーフ・インターベンションとは、アルコール依存症の治療を意図したものではなく、参加者が飲酒を控える動機づけや資材の提供、必要であれば治療に繋げることを支援するプログラムのことである。通常、医師、看護師、保健師、心理士、カウンセラーといった専門職により行われる。期間は、一般的に4週間間隔で、1~5回の短期間で実施されることが多い。
ブリーフ・インターベンションの多くに組み込まれているコンテンツは以下の通り。
  1. 普段の飲酒についての振り返り
  2. 飲酒量へのフィードバック(推奨されている飲酒量と普段の自分の飲酒量の比較、およびその飲酒量がもたらす将来の健康リスク)
  3. 飲酒のリスクや減酒の利点に関する情報提供
  4. 現在の飲酒量を減らすための計画と、目標設定、など。
ブリーフ・インターベンションは、若年から高齢者まで幅広い年代層で使用され、飲酒量の削減効果が示唆されている
ブリーフ・インターベンションは、アルコール依存症ではないが、スクリーニングによってアルコール消費が過剰だと認識された人や飲酒による何かしらの害を経験したあらゆる世代の男女において有効である可能性が様々な文献を統合した研究(メタアナリシス)にて示唆されている(2)。スクリーニングは、AUDITなどのツールやアルコール消費量に関する質問によって行われ、同研究に含まれた参加者の当初平均飲酒量は310g/週(約90~460g/週)であり、中央値飲酒量は244g/週であった。(なお310g/週は44.3g/日であり、日本の生活習慣病のリスクを高める飲酒量に該当する。)この研究では、ブリーフ・インターベンションは飲酒量を週あたり20g減少させ、週あたりの飲酒日数にもわずかながら有意な減少効果をもたらすと報告している。また、AUDITスコア8以上または1日あたり飲酒量が男性36g、女性24g以上の高齢者集団においても、ブリーフ・インターベンションの効果についての研究は行われており、介入群と対照群のいずれにおいても飲酒量の減少が見られた報告がある(3,4)。ただ、若年成人や成人と比較すると介入の効果は小さい可能性がある。いずれの研究においても、ブリーフ・インターベンション後の飲酒量が主な効果指標であり、疾病予防に関連する指標は測定されていなかった。
動機づけ面接:一般的な方法ではあるが効果は混在
動機づけ面接(motivational interview)は、参加者の「変わりたい」という動機や方向をカウンセリングの中で引き出す、参加者中心の方法である(5)。この方法も、多量飲酒の予防や、飲酒量を減らすために有用だと報告されているが、その効果や効果のレベルは混在している(3,4,6–9)。
動機づけ面接は下記の5つの原則に基づいて行われる(5)。
  1. 共感を表現する
  2. 言い争いを避ける
  3. 本来の価値観と現在の行動の矛盾を明らかにする
  4. 行動変容に対する抵抗を非難するのではなく、抵抗の方向を変えて動機づけにつなげていく
  5. 変化に対する自己効力感をサポートする
さらに、動機づけに追加して、飲酒量の評価とそれに対する個別のフィードバックが組み合わせられる場合もあり、動機づけ強化(motivational enhancement)と呼ばれる(7)。
動機づけ面接:効果の有無は混在しており、年代別に効果の違いが見られる
動機付け面接に関しては、若年〜高齢者まで、どの年代にも広く適応できる介入方法であるが、年代によってその効果や、効果の大きさは異なる可能性が指摘されている。
青年、若年成人を対象とした介入方法の中では最も一般的であり、飲酒量の減少や飲酒に関連する問題(日常生活への悪影響や危険な性行為など)の有意な減少につながったことが報告されている(6)。また、若年に限らず成人一般集団に対しても、動機づけ面接は有意な飲酒量減少につながったことが報告されている(8,9)。一方、若年成人を対象にした84個の介入研究を含めた包括的なコクランレビューでは、動機づけ面接の効果は小さいことが報告されており(7)、動機づけ面接が有効な場合もあるが、動機づけが必ずしも小さな集団での統計学的解析では有意な効果をあげるとは言い切れない可能性もある。高齢者を対象とした動機付け介入では飲酒量の減少が見られたものの、小さな集団での統計学的解析では有意な効果は確認されていない(3,4)。統計的に有意差は確認されていないが、有効例があることは事実で、有効性がないことが確認されているということではなく、今後大きな集団での検証が望まれる。動機付け介入は、中年または飲酒問題が深刻な人よりも、依存度の低い多量飲酒の若年成人に対してより効果的であることが示唆されている(8)。また動機づけ面接の有効性を確認するには、数年の介入期間での研究が望まれる。
コンピューターを使った減酒介入も有用である可能性(10–13)。
コンピューターを使った減酒介入には、個人にあわせた規範的フィードバックや、動機付けフィードバック、飲酒を断る方法の伝授から、認知行動療法の要素を盛り込んだ介入まで幅広い介入が存在する。コンピューターを使った減酒介入の利点は、介入者(専門職)の技能によらず均質な介入を行えること、参加者が好きな時間に受けられること、個人に合わせたメッセージの送信ができ、対面と同じように双方向の介入が可能であることなどがあげられる。コンピューターを使った減酒介入はあらゆる飲酒量の学生や、研究された国(アメリカ、カナダ、オランダ、ドイツ)で規定されている低リスク飲酒量を超える問題飲酒者(AUDIT5~11以上、男性210g/週以上、女性140g/週以上など国によって要件が異なる)に有効であることが示唆されている(10,11)。また専門職が介入しない、全てコンピューターが自助的に行う介入でも、AUDITスコアが8以上の飲酒者や、1日当たり飲酒量が男性30g、女性20g以上の飲酒者に対して、減酒に効果があったことが報告されている(12)。コンピューターを用いた介入の具体的なサイトとしては、Web basics、Alcohol 101、Alcohol Eduなどが挙げられる。
また、インターネットを用いた認知行動療法(Internet-delivered cognitive behavior therapy)も、あらゆる飲酒量の対象者(AUDITスコア5以上の低リスク者からAUDITスコア8以上の問題飲酒者の双方を含む)に対して、アルコール消費を減らすための有望な介入であるという報告がある(13)なお、精神疾患がある人や依存症治療中の患者は本研究の対象に含まれていない。
中年から高齢者に対しては情報提供のみでも役立つ可能性
中年〜高齢者を対象にした減酒を目的としたランダム化比較試験のシステマティックレビュー(14,15)によると、介入の方法は様々(動機づけ面接、ブリーフ・インターベンション、飲酒量に対して個別のフィードバック、アルコールと健康に関するパンフレットの送付など)であり、概ね減酒につながったことが示唆されている。中年〜高齢者に対しては、飲酒に関する情報提供のみでも減酒につながる可能性があることが示唆されている。
そのほか、効果的とされる行動変容のテクニック(12,16)
AUDITスコア8以上の飲酒者に対して、飲酒量の削減を目的としてよく用いられており、ある程度効果的だとされている行動変容のテクニックは以下の通り。
  • フィードバック(feedback):相談やヒアリングにおいて、対象者の生活状況や行動に関して何らかのフィードバックを行うこと
  • 問題解決(problem solving):飲酒の衝動や欲求を生み出す要因(例:パブにいる、不安を感じる)を特定し、その要因を回避するための対策を講じること
  • 目標設定(goal-setting):対象者の行動変容の目標設定をサポートすること
  • セルフモニタリング(self-monitoring) :毎日の飲酒量を記録できる、「飲酒日記」などを用いて、対象者が自身の行動を振り返れるようにすること
  • 行動のきっかけになるものを避ける/減らす(avoidance/reducing exposure to cues for behavior):飲酒のきっかけとなる社会的な行動を減らすこと(例:同僚との交流を飲み会からランチに切り替える)
  • メリットとデメリットの検討(pros and cons):飲酒に関して、対象者におけるメリットとデメリットを考える機会を与えること
  • 報酬とペナルティを伴う行動契約(behavioral contracting with rewards and penalties):1週間お酒を飲まないなどの実行すべき行動と、それが達成できた場合の報酬、達成できなかった場合のペナルティを文書化し他の人と共有すること
飲酒量を評価するツールでよく使用されるもの(14)
AUDITスコア8以上の飲酒者に対して、飲酒量の削減を目的としてよく用いられており、ある程度効果的だとされている行動変容のテクニックは以下の通り。
  • AUDIT (Alcohol Use Disorder Identification Test) :アルコール問題のスクリーニングの一つ。WHOが問題飲酒を早期に発見する目的で作成したもので、世界で最もよく使われている10項目のスクリーニングツール
  • CAGE(Cut, Annoyed, Guilty and Eye):アルコール依存症をスクリーニングするための4項目のツール
  • Time Line Follow Back (TLFB):飲酒量と飲酒頻度を評価するツール。飲酒日数、1日の飲酒量、禁酒日数などを回答してもらう
  • The Comorbidity Alcohol Risk Evaluation Tool (CARET):高齢者において、リクスの高い飲酒をしているかを評価するツール。飲酒量、高血圧などの疾患の有無、飲んでいる薬なども合わせて評価できる

エビデンスのまとめに関する手法最終更新日:2023年8月

これは、PubMed および Web of Science のデータベースを使用して、当該分野の介入のエビデンス(主にシステマティックレビューやメタアナリシス)を収集し、文献調査を行った結果をまとめたものです。検索式の設定に関しては、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のエビデンス一覧等を基に作成しました。

参考文献や文献調査の詳細情報
参考文献リスト
No. 著者 文献名 発表年
1. World Health Organization. Brief intervention for hazardous and harmful drinking : a manual for use in primary care / Thomas F. Babor, John C. Higgins-Biddle. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/handle/10665/67210 2001
2. Kaner EF, et al. Effectiveness of brief alcohol interventions in primary care populations. Cochrane Database Syst Rev [Internet]. ;2(2):CD004148. Available from: http://dx.doi.org/10.1002/14651858.CD004148.pub4 2018 Feb
3. Gordon AJ, et al. Comparison of consumption effects of brief interventions for hazardous drinking elderly. Subst Use Misuse [Internet]. ;38(8):1017–35. Available from: http://dx.doi.org/10.1081/ja-120017649 2003 Jun
4. Hansen ABG, et al. Brief Alcohol Intervention by Newly Trained Workers Versus Leaflets: Comparison of Effect in Older Heavy Drinkers Identified in a Population Health Examination Survey: A Randomized Controlled Trial [Internet]. Vol. 47, Alcohol and Alcoholism. p. 25–32. Available from: http://dx.doi.org/10.1093/alcalc/agr140 2012
5. Rollnick S, et al. What is motivational interviewing? Behav Cogn Psychother [Internet]. ;23(4):325–34. Available from: https://www.cambridge.org/core/journals/behavioural-and-cognitive-psychotherapy/article/what-is-motivational-interviewing/F7E8B9E777291290E6DF0FDE37999C8D 1995 Oct
6. Tanner-Smith EE, et al. Brief alcohol interventions for adolescents and young adults: a systematic review and meta-analysis. J Subst Abuse Treat [Internet].;51:1–18. Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.jsat.2014.09.001 2015 Apr
7. Foxcroft DR, et al. Motivational interviewing for the prevention of alcohol misuse in young adults. Cochrane Database Syst Rev [Internet]. ;7:CD007025. Available from: https://bdigital.ufp.pt/handle/10284/8114 2016 Jul
8. Vasilaki EI, et al. The efficacy of motivational interviewing as a brief intervention for excessive drinking: a meta-analytic review. Alcohol Alcohol [Internet]. ;41(3):328–35. Available from: http://dx.doi.org/10.1093/alcalc/agl016 2006 Mar
9. Platt L, et al. How effective are brief interventions in reducing alcohol consumption: do the setting, practitioner group and content matter? Findings from a systematic review and metaregression analysis [Internet]. Vol. 6, BMJ Open. p. e011473. Available from: http://dx.doi.org/10.1136/bmjopen-2016-011473 2016
10. Riper H, et al. Effectiveness of E-self-help interventions for curbing adult problem drinking: a meta-analysis. J Med Internet Res [Internet]. ;13(2):e42. Available from: http://dx.doi.org/10.2196/jmir.1691 2011 Jun
11. Tebb KP, et al. Use of theory in computer-based interventions to reduce alcohol use among adolescents and young adults: a systematic review. BMC Public Health [Internet]. ;16:517. Available from: http://dx.doi.org/10.1186/s12889-016-3183-x 2016 Jun
12. Khadjesari Z, et al. Can stand-alone computer-based interventions reduce alcohol consumption? A systematic review. Addiction [Internet]. ;106(2):267–82. Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1360-0443.2010.03214.x 2011 Feb
13. Hadjistavropoulos HD, et al. A systematic review of internet-delivered cognitive behavior therapy for alcohol misuse: study characteristics, program content and outcomes. Cogn Behav Ther [Internet]. ;49(4):327–46. Available from: http://dx.doi.org/10.1080/16506073.2019.1663258 2020 Jul
14. Armstrong-Moore R, et al. Interventions to reduce the negative effects of alcohol consumption in older adults: a systematic review. BMC Public Health [Internet]. ;18(1):302. Available from: http://dx.doi.org/10.1186/s12889-018-5199-x 2018 Mar
15. Kelly S, et al. Interventions to prevent and reduce excessive alcohol consumption in older people: a systematic review and meta-analysis. Age Ageing [Internet]. ;47(2):175–84. Available from: http://dx.doi.org/10.1093/ageing/afx132 2018 Mar
16. Howlett N, et al. A systematic review and behaviour change technique analysis of remotely delivered alcohol and/or substance misuse interventions for adults. Drug Alcohol Depend [Internet]. ;239:109597. Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.drugalcdep.2022.109597 2022 Oct