室温と高血圧、睡眠の関係

「冬の室温管理」の大切さについて考えるきっかけとなる、“室温見直しチェックシート”付き健康づくり支援ツール​

冬の室温の低さが及ぼす健康への影響を解説し、“室温見直しチェックシート”により、各部屋や生活シーンに合わせた室温を意識できるような構成としています。また、誰にでも取り組める冬の室温対策やWHOの推奨温度等について紹介しています。

ツール監修者一覧(50音順)

東 賢一
東 賢一
関西福祉科学大学健康福祉学部 教授
略歴:
2007年 京都大学大学院都市環境工学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
2007年 近畿大学医学部 助教
2012年 近畿大学医学部 講師
2015年 近畿大学医学部・近畿大学大学院医学研究科 准教授
2023年 関西福祉科学大学健康福祉学部 教授(現在に至る)
専門分野:衛生・公衆衛生学、健康リスク評価学、疫学
資格:日本公衆衛生学会認定専門家、日本衛生学会認定衛生学エキスパート
学会活動:室内環境学会理事長、日本衛生学会理事、日本臨床環境医学会理事、日本産業衛生学会代議員、日本疫学会代議員、国際産業保健学会(International Commission on Occupational Health)室内空気質と健康の科学委員会(Scientific Committee on Indoor Air Quality and Health)委員長(Chair)など
社会活動:これまで世界保健機関(WHO)、国際がん研究機関(IARC)等の専門委員を務める。
著書:「予防原則-人と環境の保護のための基本理念-」(合同出版、共著、2005)、「住居医学(IV)」(米田出版、分担執筆、2010)、「PM2.5: Role of Oxidative Stress in Health Effects and Prevention Strategy」(Nova Science、分担執筆、2015)、「テキスト健康科学(改訂第2版)」(南江堂、分担執筆、2017)、「Environmental Risk Analysis for Asian-Oriented, Risk-Based Watershed Management」(Springer、分担執筆、2018)、「大気環境の事典」(朝倉書店、分担執筆、2019)、「Indoor Environmental Quality and Health Risk toward Healthier Environment for All」(Springer、分担執筆、2020)、「生活健康科学(新版第2版)」(三共出版、分担執筆、2022)、「Advances in the toxicity of construction and building materials」(Elsevier、分担執筆、2022)、「住まいのアレルギー対策-室内環境からのアプローチ-」(技報堂出版、分担執筆、2023)、「室内環境の事典」(朝倉書店、編著、2023)ほか多数。
詳細を見る
監修ツール
  • 冬の室温は18℃以上がWHO(世界保健機関)で推奨されています 部屋を暖かくして過ごしましょう

課題の背景にあるエビデンスの情報

室温と健康に関するエビデンスのまとめ

18℃以下の低い室温は血圧、睡眠の質など、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。低い室温と高血圧については複数の研究で一貫して関連が報告されており、WHO(世界保健機関)などからもガイドラインが出されていることより、室温と疾患の関連の中でもより強固なエビデンスがあると考えられる。

血圧
観察研究
  • 複数の観察研究で、室温と収縮期血圧に負の関連が確認された(1–4)。室温が低いほど血圧が高く、室温が18℃以下で高血圧のリスクが高い。
  • 高齢者においてその傾向が強く、特に高齢女性は室温に対して脆弱(5)。
介入研究
  • 人工気候室を用いた介入研究が複数あり、全てにおいて寒冷曝露(8℃~10℃、あるいは暖房なしの脱衣所)は、年齢・性別に関係なく、収縮期血圧(起床時~2時間後、仰臥位安静後、脱衣状態)を有意に上昇させた(6–10)。
  • リビングの暖房器具を起床予定時刻の1時間前に設定し、設定温度を24℃に維持し、起床後2時間までリビングにいるよう指示する介入により、リビングの温度が2.09℃有意に上昇し、収縮期および拡張期血圧が4.43/2.33mmHg有意に低下した(11)。
システマティックレビュー(系統的レビュー)
  • 室温と疾患や症状との関係を報告したシステマティックレビューがPublic Health England(イングランド公衆衛生庁、現、UK Health Security Agency(英国保健安全保障庁))、WHO(世界保健機関)、Public Health Wales(ウェールズ公衆衛生庁)から公表されている。
  • Public Health England(12)は、室温の低さが健康に与える影響を系統的にレビューしており、ランダム化比較試験2件、コホート研究2件、ケースコントロール研究1件、横断研究15件からの結果をまとめている。成人(16〜64歳)においては、18℃以下の室温は高い血圧と関連することが示された。この結果は高齢者にもあてはまる可能性がある。
  • WHO(13)は、18℃以下の室内で過ごしている人は、18℃以上の室内で過ごしている人よりも健康アウトカムが好ましくないかを調べることを目的としてレビューしており、室温と血圧の関連について調べていた6本すべての研究で、低い室温は高い血圧と関連した。
  • Public Health Wales(14)は、ウェールズで推奨されている室温の指標の、リビングは21℃、その他の部屋は18℃(60歳以上の人がいる場合、リビングは23℃)が最新のエビデンスに沿うかどうかを検討することを目的にレビューしており、血圧との関連について、抽出された4本の観察研究全てで低い室温と高い血圧の有意な関連が認められた。上昇する収縮期血圧は研究によって異なり、室温が10℃低下するごとに上昇する収縮期血圧は2.2〜8.2mmHgであった。若年成人と比べて高齢者が、男性と比べて女性が寒い室温に影響を受けやすい可能性がある。さらに、2つの介入研究は、観察研究の結果を支持するものであり、室温を上げることで血圧が低下した。
睡眠
観察研究
  • 日本で実施された、寝室での寒さの知覚と睡眠の質を平均52.6歳の集団で評価した研究では、寝室で寒さを感じない群と比較して、時々感じる群、よく感じる群、または常に感じる群のPittsburg Sleep Quality Index(PSQI)スコアは、調整後有意に高い=睡眠の質が低かった。なお、暖房使用は寒さの知覚と有意に関連があり、暖房使用者は寒さを感じない傾向にあった(15)。
  • 睡眠のアウトカムは、足先が冷えて眠れない人の割合(有意差なし)(16)、睡眠効率・中途覚醒回数(改善)(17)、眠りにつくまでにかかる時間(短くなるが有意差なし)(18)などが用いられていた。
システマティックレビュー
  • 室温と睡眠の関連について報告したシステマティックレビューが、Public Health Wales(ウェールズ公衆衛生庁)から公表されている(14)。高齢者を対象とした研究では、10℃の寒い部屋で寝る人は25℃の部屋で眠る人よりも、眠りにつくまでの時間が長かった一方、比較的若い集団(平均年齢28.5歳)を対象にした研究では、室温と睡眠問題には関連がなかったことをまとめている。
呼吸器疾患
システマティックレビュー
  • 室温と呼吸器疾患の関連について報告したシステマティックレビューが、WHO(13)とPublic Health Wales(ウェールズ公衆衛生庁)(14)から公表されている。WHOのレビューでは4本中3本で、Public Health Walesのレビューでは3本中1本で有意な関連があったことが報告されており、18℃以下の低い室温が慢性閉塞性肺疾患の増悪と関連する可能性がある。

上述のシステマティックレビューの結果等を踏まえてWHOや各国ではガイドラインや基準が定められている。(※ASHRAE以下はシステマティックレビューに基づいていない。)

発行元 名称 推奨
UK Health Security Agency
(参考文献19)
Cold weather plan for England 18℃以上
日中の推奨:18℃の閾値は、65歳以上で基礎疾患のある人々にとっては特に重要である。18℃より少し高めの室内温度設定が、健康に良いだろう。1-64歳の健康な集団に対してもこの閾値は当てはまる。もし適切な服装で身体活動量も確保できるのであれば、18℃以下でも問題はなさそうである。
夜間の推奨:18℃の閾値は、65歳以上で基礎疾患のある人々にとっては特に重要である。十分な量の寝具類、寝間着、保温性の高い毛布、暖房器具などを必要に応じて使用すべきである。1-64歳の健康な集団に対しては、適切な寝具、寝間着、ブランケット、ヒーター等を使用している場合は、この閾値の重要性は低い。
WHO (参考文献20) WHO Housing and health guidelines 18℃以上
高齢者、子ども、慢性疾患(特に心肺の疾患)を持つ人などがいる場合は、18℃より高い温度が推奨される可能性。
Welsh Government (参考文献21)
(ウェールズ政府)
Tackling fuel poverty 2021 to 2035 リビングは21℃、その他の部屋は18℃(60歳以上の人がいる場合、リビングは23℃)
(平日は24時間ごとに9時間、週末は24時間ごとに16時間、上記の温度を保つ)
ASHRAE (参考文献22)
(アメリカ暖房冷凍空調学会)
ASHRAE Standard 55-2017 19.4°C~27.8°C
※設定した基準がacceptableかどうか(快適かどうか)について、基礎代謝、着用している服、室温、湿度などをもとに検討
フィンランド環境省 (参考文献23) Decree of the Ministry of the Environment on the Indoor Climate and Ventilation of New buildings 暖房期 21℃
※”a building’s room temperature shall be comfortable”という記載があることから、快適さについても加味された基準になっていると考えられる
中国国家環境保護総局
(参考文献24)
室内空気質基準 冬場 16~24℃
※設定背景や条件などの記載なし
カナダ・トロント公衆衛生局
(参考文献25)
トロント市法497章(暖房) 9 月 15 日~6 月 1 日
最小温度 21℃
※設定背景や条件などの記載なし

エビデンスのまとめに関する手法最終更新日:2024年1月

これは、PubMed および Web of Science のデータベースを使用して、当該分野の介入のエビデンス(主にシステマティックレビューやメタアナリシス)を収集し、文献調査を行った結果をまとめたものです。検索式の設定に関しては、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のエビデンス一覧等を基に作成しました。

参考文献や文献調査の詳細情報
参考文献リスト
No. 著者 文献名 発表年
1. Tikhonoff V, et al. Body, indoor, outdoor temperature – and arterial blood pressure. J Hypertens. 39(5):861-863. 2021
2. Zhao H, et al. ‘My blood pressure is low today, do you have the heating on?’ The association between indoor temperature and blood pressure. J Hypertens. 37(3):504-512. 2019
3. Shiue I, et al. Indoor temperature below 18°C accounts for 9% population attributable risk for high blood pressure in Scotland. Int J Cardiol. 171(1):e1-2. 2014
4. Yatabe J, et al. Effects of room temperature on home blood pressure variations: findings from a long-term observational study in Aizumisato Town. Hypertens Res. 40(8):785-787. 2017
5. Umishio W, et al. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter: A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Hypertension. 74(4):756-766. 2019
6. 王紅兵, 他. 寝室温度の早朝血圧上昇に対する影響. 69(4):234-244. 2006
7. 鏡森定信, 他. 保養からみた快適性ならびに安全性に関する気象因子の時間衛生学的検討. 日本温泉気候物理医学会雑誌. 66(4):205-213. 2003
8. 道広 和美, 他. 浴室温度変化と血圧変動. 生理心理学と精神生理学. 14(2):69-76. 1996
9. 徳田哲男, 他. 環境温度の変化と高齢者の心身諸機能に関する研究. 人間工学.25(4):197-206. 1989
10. 藤島和孝, 他. 寒冷環境下における体温調節反応の性差. 健康科学. 4:153-157. 1982
11. Saeki K, et al. Short-term effects of instruction in home heating on indoor temperature and blood pressure in elderly people: a randomized controlled trial. J Hypertens.33(11):2338-43. 2015
12. Public Health England. Minimum home temperature thresholds for health in winter – A systematic literature review. 2014
13. Telfar Barnard L, et al. Web Annex B. Report of the systematic review on the effect of indoor cold on health. In: WHO Housing and health guidelines. World Health Organization. 2018
14. Janssen H, et al. Cold homes and their association with health and well-being: a systematic literature review. Wrexham: Public Health Wales NHS Trust. 2022
15. Chimed-Ochir O, et al. Perception of feeling cold in the bedroom and sleep quality. Nagoya J Med Sci. 83(4):705-714. 2021
16. 梅本大輔, 他. 全館冷暖房による均一な温熱環境が居住者の睡眠指標へ及ぼす影響. 日本建築学会環境系論文集. 88(807):429-438. 2023
17. 海塩渉, 他. 高断熱住宅への住み替えによる冬季の睡眠の質への影響. 日本建築学会環境系論文集. 82(736):513-523. 2017
18. 森郁惠, 他. 窓の断熱改修が住宅の温熱環境と高齢者の生活および健康に及ぼす影響に関する研究. 日本建築学会環境系論文集. 79(706):1061-1069. 2014
19. UK Health Security Agency. The Cold Weather Plan for England Protecting health and reducing harm from cold weather. 2015
20. World Health Organization. WHO Housing and health guidelines. 2018
21. Welsh Government. Tackling fuel poverty 2021 to 2035 A plan to support people struggling to meet the cost of their domestic energy needs. 2021
22. ANSI/ASHRAE. Standard 55: 2017, Thermal Environmental Conditions for Human Occupancy. 2017
23. Ministry of the Environment. Decree of the Ministry of the Environment on the Indoor Climate and Ventilation of New buildings. 2017
24. State Administration of Quality Supervision, Inspection and Quarantine, Ministry of Health, State Environmental Protection Administration. Indoor air quality standards. 2002
25. Toronto. TORONTO MUNICIPAL CODE CHAPTER 497, HEATING. 2018