ヘッドホン(イヤホン)難聴

予防可能な難聴リスクとその具体的な対策が確認できる健康づくり支援ツール

大音量・長時間の使用による難聴リスクと予防の大切さを解説し、ヘッドホンやイヤホンの使い方を見直すきっかけとなるような構成としています。

あなたにもヘッドホン難聴のリスクあり!
最終更新日:2024年8月

ツール監修者一覧(50音順)

堀井 新
堀井 新
新潟大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授
略歴:
1989年 徳島大学医学部医学科卒業
1994年 大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了
1997年 大阪大学医学部助手(耳鼻咽喉科)
1998-2000年 ニュージーランドオタゴ大学医学部薬理学 visiting research staff
2006年 大阪大学医学部講師(耳鼻咽喉科)
2009年 市立吹田市民病院耳鼻咽喉科部長
2013年 国立病院機構大阪医療センター耳鼻咽喉科長
2015年 現職
専門領域:難聴めまい、耳科学、神経耳科学
役職:
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会理事
日本頭頸部外科学会理事
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監修ツール
  • あなたにもヘッドホン難聴のリスクあり!(リーフレット、ポスター)

課題の背景にあるエビデンスの情報

ヘッドホン(イヤホン)難聴に関するエビデンスまとめ

ヘッドホンで音楽を聴く時間や音量は、難聴リスクの一要因
  • 大音量に、定期的に、または長時間さらされると、感覚細胞やその他の構造に永久的な損傷を与え、回復することのない難聴につながる(1)。
  • 聴覚症状(聴力の低下、耳鳴り、痛みなど)の出現は、ヘッドホンやイヤホンによる聴取音量が大きく (2,3,4)、聴取時間が長い(2,5)と多い傾向にある。
  • 音圧と時間のどちらの影響が大きいかは明確にはなっていない。時間よりも音量が影響するという研究もあれば(6)、音量よりも時間が影響するという研究もある(5)。
ヘッドホン難聴は、若年層に多い
  • 全体的に研究数は少なく、研究対象者は大学生~29歳以下を研究対象にしたものが多い。その背景には、ヘッドホンやイヤホンの利用者は若年成人が多く(5,6,7)、若年成人はヘッドホンを用いて大音量で音楽を聴取する傾向にあること(8)が挙げられている。
  • 世界で10億人以上の若者が、安全ではないヘッドホンの使用によって難聴のリスクにさらされている可能性があり、中・高所得国の12~35歳の約半数がMP3プレーヤーやスマートフォンなどのパーソナルオーディオシステムで、WHO基準(1週間に最大40時間、80dB以下)以上の危険なレベルの音を聞いている(1)。
  • 日本の患者数に関しては現時点で明らかになっていない。
周囲の騒音が聴取音量に影響。ノイズキャンセリング機能が難聴予防に有用
  • 周囲の騒音が大きいと、聴取音量が大きくなる傾向にあるが、ヘッドホンの形状や仕様によって音量の上げ幅が異なる(7,8,9,10)。
  • 複数の研究を組み合わせて判断すると、騒音環境下で聴取音量を小さくする効果は、ノイズキャンセリング機能付きヘッドホンとノイズキャンセリング機能付きカナル型(耳栓型)イヤホンが最も高く、次いで、ノイズキャンセリング機能が付いていない、オーバーイヤーヘッドホン(耳を覆うタイプのヘッドホン)やカナル型イヤホンであると想定される(7,8,9,10)。
  • イヤホンやヘッドホンの装着が事故につながる危険性に留意する必要がある (11)。
ヘッドホン難聴関連のガイドラインや推奨事項
発行元 名称 推奨
WHO (参考文献1) WHO-ITU H.870 global standard (Safe Listening and Systems) 安全な聴取の上限
  • 安全な聴取の上限成人:週次1.6Pah (80dBAで週40時間)
  • 小児など感度の高い人:週次0.51Pah (75dBAで週40時間)
※許容値100%を消化するのに必要な時間は、平均音量によって異なる。例えば、80dBAで40時間聴取することと98dBAで75分聴取することは同じ許容値。
WHO (参考文献12) m-safe listening
  • パーソナルオーディオデバイスは最大音量の60%以下で聞く
  • 騒がしい活動に費やす時間を制限する(騒音から離れるために短時間の休憩を取る)
    ※休憩時間の目安として、啓発活動のためのメッセージライブラリでは、「1時間ごとに10分耳を休めましょう」と記載
  • リスニングレベルを監視する(音量制限やサウンドレベルモニタリングなどの安全機能を利用する)
  • 大きな音から耳を守る(騒がしい場所では耳栓をし、スピーカーなどの音源から離れる)
  • 難聴の警告サインに耳を傾ける
  • 定期的に聴力検査を受ける
CDC (参考文献13) Noise can cause hearing loss
  • 音量を下げる
  • 大きな音から離れる
  • 騒音から離れる
  • 大声で騒がしい活動や場所を避ける
  • 聴覚保護具を使用する
Hearing Health Foundation
(参考文献14)
Keep listening
  • パーソナルオーディオデバイスの音量レベルは、最大値の50~60%で聴く
  • 音量と聴取時間はバランスをとる(長時間聴くほど、音量は下げる)
  • スマートフォンのアプリを使って、音の暴露をモニターする
  • オーバーイヤー型(可能であればノイズキャンセリング機能付き)のヘッドホンを使用する
  • 少なくとも1時間に1回は、パーソナルオーディオデバイスから離れる
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
(参考文献15)
ヘッドホン・イヤホン難聴の予防促進サイト
  • あげない:音量を上げないようにする(全体の60%以下の音量にすること+60分以上聴かないこと)
  • 医師に相談:早めに病院へ
  • ノイズキャンセリング:ノイズキャンセリング機能付きイヤホンを使う
  • 定期的に休む:耳の休憩を取る(1時間連続してイヤホンを使う場合、10分の休憩を取る)

エビデンスのまとめに関する手法最終更新日:2024年8月

これは、PubMed および Web of Science のデータベースを使用して、当該分野の介入のエビデンス(主にシステマティックレビューやメタアナリシス)を収集し、文献調査を行った結果をまとめたものです。検索式の設定に関しては、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のエビデンス一覧等を基に作成しました。

参考文献や文献調査の詳細情報
参考文献リスト
No. 著者 文献名 発表年
1. World Health Organization and International Telecommunication Union. Safe listening devices and systems: A WHO-ITU standard. Available from: https://www.itu.int/en/ITU-D/Digital-Inclusion/Documents/Safe_listening_standard.pdf (2024年8月26日アクセス) 2019
2. Almeida TR, et al. Personal Audio System: Hearing Symptoms, Habits, and Sound Pressure Levels Measured in Real Ear and a Manikin. J Speech Lang Hear Res. 22;63(6):2016-2026 2020
3. Tung CY, et al. Effect of recreational noise exposure on hearing impairment among teenage students. Res Dev Disabil. 34(1):126-132 2013
4. Bal N, et al. The possibility of cochlear synaptopathy in young people using a personal listening device. Auris Nasus Larynx. 48(6):1092-1098 2021
5. Hutchinson Marron K, et al. College students’ personal listening device usage and knowledge. Int J Audiol. 54(6):384-390 2015
6. Hoover A, et al. Survey of college students’ MP3 listening: Habits, safety issues, attitudes, and education. Am J Audiol. 19(1):73-83. 2010
7. Liang M, et al. Characteristics of noise-canceling headphones to reduce the hearing hazard for MP3 users. J Acoust Soc Am. 131(6):4526-4534 2012
8. Levey S, et al. Noise exposure estimates of urban MP3 player users. J Speech Lang Hear Res. 54(1):263-277 2011
9. Breinbauer HA, et al. Output capabilities of personal music players and assessment of preferred listening levels of test subjects: outlining recommendations for preventing music-induced hearing loss. Laryngoscope. 122(11):2549-2556 2012
10. Hoshina T, et al. Effects of an Active Noise Control Technology Applied to Earphones on Preferred Listening Levels in Noisy Environments. J Audiol Otol. 26(3):122-129 2022
11. World Health Organization. Hearing loss due to recreational exposure to loud sounds: A review. Available from https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/154589/9789241508513_eng.pdf (2024年8月26日アクセス) 2015
12. World Health Organization. Be he@lthy, be mobile: A handbook on how to implement msafelistening. Available from: https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/352276/9789240044807-eng.pdf?sequence=1 2022
13. Centers for Disease Control and Prevention. Loud Noise Can Cause Hearing Loss | NCEH. Available from: https://www.cdc.gov/hearing-loss/causes/index.html (2024年8月26日アクセス)
14. Hearing Health Foundation. Protect Your Hearing #Keep listening. Available from: https://hearinghealthfoundation.org/keeplistening/protect (2024年8月26日アクセス)
15. 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. ヘッドホン・イヤホン難聴の予防促進サイト. Available from: https://www.earphones-nancho.org (2024年8月26日アクセス)